題材といいキャラの立ち方といい話の引っ張り方といい、文句なしに面白いのですが、惜しいところもありました。男性キャラはみんなイキイキしているのですが、せっかく家康の側妾をどうだまくらかすのかといった見所なのに、女性たちが何も抵抗なく二郎三郎を受け入れてしまうところとか、気が強いと何度も書かれているお梶の方の気の強さが逸話として書かれていないので薄っぺらな感じがしました。女性作家の方がその辺は得意そうですね。
一向一揆について小説にしては詳しくて、私には面白かったです。小説なのに作者の意気込みが強すぎて話が脱線していくというのは、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』にも顕著です。
偽家康を亡き者にしようとする秀忠・宗矩ペアの飽くなき挑戦と、二郎三郎・風魔衆側との攻防は面白くて途中でやめられません。
正直言って、松平忠輝については、本作を読むまでは知らなかった。
この作品をもとに、
宝塚で『野風の笛』として上演されたらしい。
家康に「鬼子」として疎まれ、周囲の嫌忌の中で育った捨て童子。
長じてからは、武芸に秀で、語学、医術にも通じた大名に。
しかし、その才を秀忠に嫌われ、改易されてしまう。
それでいて、蟄居しながらも長寿を全うする。
まさに異能の人物。
その破天荒な生き方に憧れを抱きつつも、そこはかとない哀しみを感じずにはいられない。
この松平忠輝という人物に出会わせてくれた隆慶一郎に、感謝の二字を贈りたいのである。
傾奇者であるが風流人でもある前田慶次郎の半生がダイナミックに描かれており、読んでいてその面白さに引き込まれていく。この物語に登場している脇役達は、他の隆慶一郎作品にも主役級で登場しており、他の作品へもスーッと入っていける。隆慶一郎作品への入門編としては最適の一冊だ。
物語の内容で特に面白いのは、秀吉との対面シーン。慶次郎と秀吉、利家のそれぞれの心模様が垣間見え、手に汗にぎる緊張感がたまらない。
そして最後まで読み終わると、なぜか心に爽やかさが漂うとても面白い本だと思う。時代小説を始めて読む人にも読みやすい本だと思う。