『燃えよ剣』は司馬文学の中でも、特に人気がある。
司馬は、それまで影の黒幕的な悪役だった土方歳三に、組織作りの才能を見出し、
節義を貫く男の生き様の美しさを見出した。
現在我々が持っている土方歳三のイメージは、司馬遼太郎によって作られたものである。
司馬は闇の世界から土方歳三を引き出し、人間的な魅力を与え、再生させた。
そんな土方歳三を見事に体現し、生みの親ともいうべき原作者に「君こそ土方」と言わしめたのが、
栗塚旭である。
土方は確かにカッコいいが、それだけではない。大変、線の太いザラザラした手触りがある。
先ず、「マムシ臭い野趣」を感じさせる「バラガキ」であること、封建的な武家組織とは異なる近代的で機能的な戦闘組織を作り出した合理的な頭脳の持ち主であること、豪農出身で俳諧をたしなむ素養を受けつぐ品格のある人間であること、そして己の信じるところを貫く鉄の意志を持った野太い人間であること、最後に生き辛さや不器用さの陰があり、哀愁を感じさせる男であること、である。
栗塚は『新選組血風録』でも鮮やか過ぎるほど鮮やかに、土方を演じた。
しかし一層、人間の幅と力量そして凄みを感じさせるのが、『燃えよ剣』の土方である。
栗塚の土方をみた時、原作の土方がそっくりそのまま、そこに現れたことに驚かざるを得ない。
「栗塚の前に土方なし、栗塚の後に土方なし」言い古された言い方ではあるが、全くその通りである。
「第三話 三条木屋町・
紅屋」 局中法度誕生と、日々深まる芹沢派との確執を描く。会津公用人・外島機兵衛の福田豊士、彼は本当に役人だ。その演技には舌を巻く。上手い。
「第四話 里御坊の女」 誠の旗ができる。いよいよ新選組はその陣容を固めつつある。監察山崎の仕事振りに目を見張る。河合の生真面目さも面白い。
幕末の世情、悲哀感を無理なく感じることが出来る。
最近の幕末題材作品は妙に整理された理屈を並べたてて
近代風に垢抜けさせたものが多いがこの映画は実際の幕末の
京都の雰囲気を見事に表しているとの想像に難くない。
脇を固める小田部、香月、西田、の存在も大きい。