ロシア革命時代の神秘思想家を描いた本格推理。
こういう類の小説はすごく好きなんだけど、あまりにも事件が起きるのが遅すぎる。
謎解きがつまらない。笠井潔の矢吹駆シリーズの方が圧倒的に面白い。
本来は最初に本の全体について書くべきなのだろうが、まず最初にどうしても書いておきたい事がある。
この書には『魔法少女まどか☆マギカ』の最高レベルの評論がある。
「魔法少女まどか☆マギカ」は多くの人があの最終回の解釈を試み、多くの評論が生まれた。
だが私は本書の「まどか☆マギカ」論ほど優れた評論を見た事がない。
特に、最後の評論「そして、まどかは概念になった―ウスペンスキー思想に基づく≪魔法少女まどか☆マギカ≫の次元論の解明」。
「まどか☆マギカ」はウスペンスキーの『ターシャム・オルガヌム』の宇宙論と次元論により、その真の本質がヴェールを明かされる。時間を巡るほむら。最終回で魔法少女となり、時間を可視化したまどか。彼女たちはいったい何を見たのか。それが解かれる。
どうかこの本に興味をもたれた方は、この評論だけでも読んでほしい。後で書くが、この評論集はトップレベルのアニメ評論集だが、その中でも「まどか☆マギカ」の次元論は突き抜けている。一つの芸術作品だといえる。評論はここまで極まると詩的な美しさすら感じられるものなのか。
と、この本の「まどか☆マギカ」の評論に対して熱っぽく書きましたが、本当に見事な評論です。「まどか☆マギカ」の理解とともに、私達の世界や時間、次元への認識を拡大させます。
それではこの本の全体に関して。
どの評論も非常に面白いです!読み応えがあります。
「萌え」という現象をフッサールの現象学を使って、外部的にではなく、生きた現象として解明したり、「
灰羽連盟」を様々な閉鎖系物語とともに論じ、「AIR」に込められたダークなメッセージ、セカイ系作品として「エルフェンリート」、著者の博識なミステリーの知識から「涼宮ハルヒ」、「僕は友達が少ない」、「ef a tale of memories」「
満月をさがして」、、、と挙げればキリがないほど、膨大にして、どれも読みごたえのある、スリリングな評論でした。
著者の広範囲にして膨大なアニメ視聴量とそれを語るバックボーンとなる思想や作品に対する造詣が、本書の評論の「広さ」と「深さ」の両方をどちらも満たしています。
また物語の構造の観察力もあり、「このアニメを観てる時の、この感動はいったいどこからきているのだろうか」という謎をどんどん解き明かされていき、目から鱗が落ちます。
コリン・
ウィルソンの『アウトサイダー』やD.H.ロレンスの『不死鳥』のように、優れた評論は論じたられた作品とはまた独立した魅力をもった作品だと思います。本書はそういった本でした。