長塚京三さんの自伝と言うこともあり、意気込んで購入した。
パリ留学時代の随筆なんだな。
パリをブラブラする勇気って現代の若者は
なかなか持てないもんだと思う。
本には載っていない言葉を空想すると、なかなか面白いなぁ。
と思った。
『破顔』とは、いいネーミングです。黒を基調とした装丁も悪くないし、モノクロ写真もいい。中身は日経夕刊の随筆欄「プロムナード」に週一で掲載された小文25篇。
「たかだか七日ほどの間に、こころをよぎった由無いことを、ささやかな上機嫌にくるんでお話しする」と、後書きにありますが、私は著者
長塚京三氏に共感するというより、新鮮な驚き(むしろ脅威の眼)を以って、全篇を一度に読んでしまいました。
内容を紹介するのは控えますが、本の題名と同じ「破顔」と「手のひら大」「甘えどき」などは、印象深く、いちいち腑に落ちるというか、本当にそうだなぁと感じました。少々むずかしいところも彼らしく、実に「おヌシ、デキルな」で、団塊近傍世代の読者には特に効果的かと。
『寒山拾得図』の、幽暗の中で不気味に”破顔大笑”する寒山と拾得の表情に似たアクの強い怪異さ加減もほどよく、俳優
長塚京三の破顔(歯顔?)は、したたかで且つ温かい。
この映画で一番素敵なのは、主人公と父親が悪漢に襲われるシーン。
「なんぞ棒をもってこい」
と言われ、棒を父親に投げる少年。それを受け取った父親は警察官として仕込まれた剣道の技で、悪漢を次々と蹴散らしていく。それをみていた少年は、思わず
「国定忠治やっ」
怖くて恐ろしいだけの存在だった父親。そんな父親への恐れが尊敬へと一気に昇華していくのが伝わってくる名シーンである。ちなみにこの頑固な父親、
長塚京三が演じてます。
「少年時代」という大傑作の次ということもあり、イマイチ評価されていない作品なのだがオススメである。
本人はそんなこと意識していないと思うけど、篠田正浩って少年少女を撮らせると抜群にうまいよね。