他の人間がどう『ヨシュア・トゥリー』がいいとか、『アクトン・ベイビー』がどうとか『オール・ザット…』がこうとか言ってようがどうでもいい。自分にとってはU2と言えばこの『焔』で決まり、なのだ。
まず1曲目の「ア・ソート・オブ・ホームカミング」からして、こんな曲は他にはない。この曲が最初から最後まで保っているテンション、緊張感なのか高揚感なのか分からないが高圧電線の上を綱渡りしているかのような感覚。そして「プライド」。「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」でも「終わりなき旅」でも「ウェア・ザ・ストリーツ・ハブ・ノー・ネーム」でもなく、この「プライド」こそがU2の曲の中で最も気持ちを高揚させ、生きる力を直接的に与えてくれる曲だ。3曲目の「ワイアー」はU2の曲の中でも最も「ニューウェーブ」っぽい曲だが、ここでのボノのボーカルは明らかに何かに憑かれている。こんなボーカルは、U2の他のどの曲でも聴かれない(でもAssociatesの"Party Fears Two"なんかは正にこの手の「イタコ系」のボーカルだった)。
そして4曲目の「焔」。この曲こそがU2で一番美しく物哀しく、リリカルなメロディを聴かせる楽曲である。
「キリスト教」や「アメリカ」といった「大きなもの」と一体化しようとするのではなく、自らの魂の核を剥き出しにしてそれを音にして記録しようとする意志(正にイーノ&ラノワ!)、あまりにプリミティブで捕らえ所のないスピリチュアリティ、結果U2の全てのアルバムの中で最もアンビエントっぽくかつファンキーで、実はエコバニっぽい作品に仕上がっていると言う…いや、私はエコバニは全然好きじゃないのだけどw
「ネガティブを肯定するポジティブこそが本当のポジティブ」みたいな言葉を思い出した。あるいは「エゴが希薄」なのがこの作品の独特の「うねり」と「深み」の正体かも。割と「禅」とか「茶道」とかと根っこの部分でつながってるアルバムかも。
映画「ミッションインポッシブル」のサントラ。と言っても、『マッシヴ・アタック』や『ビョーク』等の楽曲を収録した、いわゆるコンピレーションアルバム。 目玉は、何と言っても1の「ミッションインポッシブルのテーマ」。『U2』のメンバーによる演奏は、曲とも相まって圧巻である。これ一曲のために買っても、決して損はない。他にも、CF等できっと耳にしたことがあろう『クランベリーズ』の9はお勧め。また、1の別ヴァージョンである15は、妙にアダルトな雰囲気が漂う珍品。
演奏はすべて、U2のアダム・クレイトン(ベース)とラリー・マレン・ジュニア(ドラム)。 言わずと知れた『スパイ大作戦』のリメイク、トム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』のテーマであるトラック1は、おそらくどなたでも聴いたことがある『スパイ大作戦』のテーマのリメイクです。 トラック2は、ブレイク・ビーツ炸裂。1、2は、アダムとラリーにデヴィッド・ビールが加わった(ほぼ)セルフ・アレンジ、セルフ・プロデュース。ただし、2はジュニア・ヴァスケスによるリミックス。 そのあと、トラック3、トラック4にかけていろんなサウンド・エフェクトを入れて曲を崩していく感じです。トラック5になると、ノイズというかダブがかかったというか歪んだ音になり、かなり低音が響いてくる感じです。以上、3、4、5のアレンジとプロデュースは、テクノへのアプローチを極めたとされるU2『ポップ』(1997年)のプロデューサーのひとり、ハウイ・B。ただし4はゴルディー&ロブ・プレイフォードによる、5はデイヴ・クラークによるリミックス。 五つのトラックすべて、基本的に原曲の面影を留めており、リスナーの飽きを防ぐためにだけ、こまめにアレンジとリミックスを繰り返している感じです。CDのレーベルには、「このCDは、19分47秒経つと、自動的に(自己)崩壊する(THIS CD WILL SELF-DESTRUCT IN 19 MINUTES AND 47 SECONDS)」と書かれていますが、これはもちろん『ミッション・インポッシブル』のテーマ曲であることにちなんだジョークです。実際は、何回でもというか、普通のCDのものと同じ寿命が尽きるまで再生できます。
世紀末的な憂鬱さと華々しさに別れを告げ、21世紀の幕開けにROCKの明るさを高らかに示した作品。 BONOはロックが市民性を得て、POPS勢が占めるチャートの上位にくいこむことに、ロックの価値を見出しているようです。それは次作の「Vertigo」にも感じられます。「的のど真ん中を射た気分」。ここにある幸せを感じ得るかどうかがこの作品を分けるポイントかもしれません。 さて、ROCKの未来を指し示した作品という意味では、同時期に登場したRADIOHEAD「KID A」と性格的に対をなす作品ではないでしょうか。 「KID A」。チャートやポピュラリティなどおかまいなしに、トムヨーク独自の荘厳な世界にいっちゃった作品。このROCKの形態を残していない音の洪水が未来だとしたら・・?と、ある意味「鬱」の警鐘を彼らに鳴らされていたときに、別の回答を、しかもとんでもなく希望に満ち溢れて、もう一度ROCKがヒットチャートのなかで火花を散らす必要があるとして、U2により提示されたのがこれだと位置付けてみます。 この「ATYCLB」の素晴らしいところは、ファンが望むものと、U2の望むものが、かつてなく著しい合致をみたところにあると思います。両者の距離が近く、コミュニケーションが図れているからこそ、あんなに売れ、またこんなにも強力に支持されているんだろうと思います。また音が「高揚感」に溢れていることがその要因ですよね。この構図は「名盤」たる要素そのものでしょう。 「KID A」も勿論セールスをあげました(特に北米)。しかしこれが「名盤」とだけでなく「問題作」ともいわれる所以は、そこに鳴っていた音は絶望しろとは言っても、リスナーの膝を立ち上がらせる「高揚感」がないことでした(まさに「KID A」には「WHERE THE STREETS HAVE NO NAME」がないのです)。これは思想性の違いによるものですが、ロックにはシニシズムの要素で表現する容易さはいくらでも存在する代わり、逆に理想というものを安易に掲げにくい面もあります。U2の今作は「高揚感」を90年代のように皮肉で綴る必要がなくなったのです。 また、「KID A」は作り手側からの一方的ベクトルが大きすぎることも挙げられます。トムが天才だから、受け取る側には深いインスピレーションを残しますが、この「ATYCLB」のように20年以上ファンと押したり引いたりしてきた歴史から生まれた今作とは、同じ年に発売され、未来のROCKを指し示す意味合いを持った作品としては、全く対照的なものになったと思います。
ミッションインポシブルは、現代のスパイ大作戦。自分が幼いころこの曲を聴きました
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