子供の頃、父が親戚の叔父と仕事の話をしている時にこんな風に言うのを耳にした事があります。「その値段じゃ、いまどき<ペイしない>んですよ」。 私の前ではお酒を飲んでテレビを見ているだけにしか見えなかった父が、急にオトナに見えた不思議な一瞬でした。 大学2年の頃、下宿部屋の薄い壁を通して隣室の大学4年生の声が筒抜けでした。彼は電話を頻繁にかけては開口一番「いつも大変お世話になっております」と言うのが常。随分大勢の人に世話になっているんだなぁ、と思ったものです。 大学3年の頃、バイト先の出版社から送られてきた手紙の末尾に「ご査収いただければ幸甚です」と書かれた日本語にちんぷんかんぷん。慌てて辞書を引いた覚えがあります。 新人社会人の頃、勤務先で先輩の席の電話が鳴り、それを取った時に「○○はいま席を外しております」という言葉がすぐに出ず、困った経験があります。 仕事で失敗した時に先輩から「そういう時はゴメンナサイするしかないだろう」と言われ、茶目っ気あるその物言いに、(実は大失態であったのですが)ほんの少しだけ心の重石がとれたような錯覚に陥ったことがあります。 社会人10年目ともなると、「落としどころ」と「兼ね合い」とを「視野に入れつつ」、必要とあれば交渉先に「泣きを入れる」こともいとわず仕事をしている自分がいました。 社会人15年目、学生時代の友人からのメールに「小職」という言葉を見つけ、あいつもオトナになったんだなぁと一人感慨にふけったものです。 本書「オトナ語の謎。」を読みながら、いつしか言葉によって武装しながら生きるようになった<オトナの自分>を振り返ることしきりでした。そして携帯電話やインターネットがない時代に戻ることが出来ないように、オトナ語を知らなかったあの「幼かった」頃にはもう帰れないのです。そんなことを考えるとなんとも切ない思いにとらわれてなりませんでした。
監視・尾行・盗聴・スパイ。
安保闘争・日本赤軍・革マル派・オウム真理教。
本書に書かれていることは、ほとんどの人にとって初耳で衝撃的な事実ばかりだと思います。
とにかく驚きと(ある種の)恐怖に満ちた一冊と言えるでしょう。
本書の著者は、元ジャーナリストで警視庁警備・公安担当記者として取材活動に携わった経験を持つ方なので、比較的客観的な立場で冷静に筆が進められています。
また公安警察の組織構成、歴史、工作手法、具体的な事件例、などなど情報がたっぷりつまった本なので、とりあえずはこれ一冊読んでおけば、公安警察のおおよその全体像をつかむことができます。
一度は読んでおきたい本ですね。
ただしあとがきで「巨像の背中を撫でただけに過ぎない」と述べてあるとおり、「公安警察」という闇はまだまだ圧倒的に深いようです。
興味のある方は本書を踏み台にして、さらに専門的な本や情報源にあたってみましょう。
|