忍城攻防戦です。
城にいる目ぼしい若い人間は皆、城主の成田氏長と共に小田原城へと出払ってしまい、 残された者は主人公の長親のような凡庸な者や老人、男勝りで向こう見ずな姫、 そしてごく普通の百姓といった、物の役に立ちそうにない頼りない人間のみだが、 石田三成率いる大軍の猛攻をあらゆる手を尽くして防ぎきる。
守備勢には一騎当千の猛将も頼れる軍師もいないが、地形や罠を利用して明らかな劣勢でも力をあわせて立ち向かってゆき、 その戦い方や残された人間の活躍の仕方、またその戦果という点で大袈裟過ぎないのは良いと思います。
終盤で、じゃじゃ馬娘の甲斐姫がある戦国人気武将の一人と対峙してその強さと人間性に触れて恋に落ちる、などという展開があり 読む人によっては流石にやりすぎで滑稽に感じそうなものではありますが、 しかし、姫とその周りを固める爺や達とのやりとりはコミカルなもので読んでいて楽しいので 多少の展開の強引さには目くじらを立てずにご愛嬌と思って読み進めるのが健全な楽しみ方なのだと思われます。
確かにテンポも軽妙であり、人物も魅力的であるとは思いますが、 「気軽に読める娯楽作品」、それ以上でもそれ以下でも無いというのが正直な感想です。 作品に次への広がりを求める人にはやや物足りなさを感じる事と思います。
ページを倍増してでも、それぞれのエピソードを掘り下げて書いて欲しかった。 戦は一合戦だけ、領民が慕う理由についても今一納得できない。 キャラクター設定が絶妙なだけに残念です。 同じ題材を用いた「水の城―いまだ落城せず (祥伝社文庫)」の方が 戦いや領民の感情など深く掘り下げて書かれており秀逸です。 2つ対比して読み比べてみると面白いです。
地元新聞の紹介記事をみて、気になって読んでみました。 郷土の馴染みある地名、人物名、伝承などが出てきて、ご当地ものとして興味深く読み進めることができました。 さらに南北朝の対立の始まりから、小田原合戦終了まで歴史上の重大場面が描かれており、本格的な歴史小説ともいえます。 主人公は文官的な道楽者でありながら、合戦ではかすり傷一つ負わない強運の武士という設定です。 強運を描いた各場面で「どんでん返し」があり、最後の小田原合戦を終わらせる「大どんでん返し」に至っています。 そこには不思議な血脈の由来もからんでおり、歴史ミステリー的な要素も含まれています。 逸話を詰め込みすぎたきらいもありますが、歴史マニアにとっては掘り出し物でした。
読みやすいのは確かですが。
そんなに面白いとは思えない。浅い。
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