源氏物語のようななよなよした王朝ものかと思いきや、へたなサスペンスものより緊張感のある内容だと思いました。「風の群像」が師匠の吉川英治をしのぐところを感じたので、なんの予備知識もなしに本書を読み始めたのですが「おおっ、杉本やるやんけー」という感じでした。
宝暦治水を題材とした杉本苑子の直木賞(1962年)受賞作。 私の誕生よりも前に書かれた作品なのだが、古さを感じさせない。
世に言う「薩摩義士」の話は、鹿児島では大方の人のこころに刻まれている物語で、この小説の主人公でもある平田靱負は鹿児島人の誇りでもあり、一つの「武士の生き様」を体現した人物として尊敬を集めている。
敢えて言うならば、登場人物の台詞が基本的に共通語である点が、鹿児島出身者としてはやや物足りなさというか、臨場感に欠けてしまう印象を受ける(というわけで星4つ)。 が、これは読み手の属性によるものであり、この作品の出来は直木賞受賞作の名に恥じないものであると感じる。
上巻は、幕府からの普請を命ずる奉書が届くところから、藩主重年が継嗣擁立の為の江戸参内の途中で現地を訪れるところまで。 特に、重年が継嗣善次郎(のちの重豪)を伴い、麦飯を食べる場面描写は見事である。 この重豪がその才を愛でた曾孫の斉彬が、討幕を為す西郷や大久保を育てたのだから、歴史と言うのは面白いものだ。
下巻は、その後の工事完成と平田の自害までを綴る。 もちろん本書はフィクションであるが、著者の地理的調査に裏打ちされた緻密な構成や、女性ならではの観点からの描写が垣間見え、エンターティメントとして十分なリアリティーを持たせていると感じた。
以前、佐伯晶の『秘曲』という小説を読んだことがあり、クライマックスの凄まじい感動と、そこに至るまでのシンドサとが記憶に残っている。佐伯晶という作家は多分男性と思われるが、女性から見た世阿弥の小説は本書と瀬戸内寂聴『秘花』が双璧であり、この三作を読み比べてみるのも一興と言える。
前から池波正太郎が愛読書です!私もあの時代にすんでいたら、良かったなあとついつい引き込まれてしまいます。ぜひ!読んでみてください!
あの時代に息づく武家や商人、台所から、町の風景まで目に見えるようですよ。
曲げを結って下駄を履いて一緒にお話の中に参加してください。
本書は、江戸時代に幕府より、木曽川、長良川、揖斐川の改修工事を命じられた薩摩藩士の苦悩を描いた小説です。もちろんこれは史実にも明確に残っているノンフィクションでもあり、現在でもこの一帯には薩摩藩士を祀る神社があるくらい、地元の人のこころに残る大事業でもあったようです。
江戸時代薩摩藩は外様の雄として、幕府より恐れられその力を削ぐために様々な圧力を加えようとします。そのひとつがこのような公共工事のスポンサーになることを命じる事だったわけですが、実際には薩摩藩の財政は破綻寸前で、その状態でこのような命令を受ければ、藩は潰れるしかないと言うところまで追い込まれていたわけです。
しかし、断ることも出来ず、幕府に弓を引くことも出来ず、薩摩藩首脳は苦渋の決断をするに至るのですが、本書ではそのあたりのこころの揺れ動きがとても丁寧に描かれており、抵抗無く感情移入することができます。
司馬遼太郎の歴史小説とはちょっと違う人物の描き方を堪能出来ると思います。
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