静謐さを秘め、幻想的で奥ゆかしさを感じさせる絵のタッチと、物悲しく美しい怖さを孕んだストーリーにハラハラ・ドキドキさせられ、又切なさを想わせる。個人的意見の一つとして、余り感受性に富んだ人間ではなくとも詩的な気分にさせられてしまう魅惑の絵本だと思う。空虚感だとか、救い様のない「堕ちてゆく」感覚と言えばいいのか。拝読後に引きずられる余韻はそこいらの絵本の非ではない。
いつか落としてきてしまった みずみずしい感性を
埃が舞ってキラキラ光る 古い校舎の中で 見つけたような
音楽が聞こえてきそうな
そんな感じ
自宅介護している病気の父親のために購入しました。
たくさんの話が入っていることと話し手さんの話し方が非常に聞きやすいので良いと思いました。
父親は、それなりの年齢のため、知らない話が多いかもしれませんが、基本的に童話ですので誰でも楽しめる内容だと思いました。
表紙の絵はどことなくムンクの「思春期」を連想させます。酒井さんもそれを意図して描いたのではないかと感じられます。 まず黒い絵の具をこってりと塗り、その上に絵の具を重ねていく。そして色鉛筆の線できめる。そうやって描かれた酒井さんの絵がとても好きです。 奥行き感がある、というのかな。遠近感とは違う意味で。 はじめの部分のページ構成が映画的。これからお話が始まります、という気分にさせます。 黒が効果的です。物語のはじめに、「北方の海の色は青うございました。」とあるのですが、海はほとんど黒で描かれていて、海の冷たさが感じられます。 人魚が香具師に連れて行かれる場面の絵が特に好きです。人魚の腕をつかんでいる手がとても大きくて印象的。 これは、お爺さんの手なんですよね?同じ手でやさしいことも残酷なこともできるんです。人間って。
超人的な多作ゆえに全貌が未だ全集として解明されていない作家だけに、余り見切ったようなことを言うのは憚られるが、少なくとも本書に選ばれた作品の共通点としては、ハッピー・エンドどころか基本的には悲劇やカタストロフで終わる話ばかりなことが挙げられる。
これは、作家自身の以下のような趣向の表れと言えるだろう。
「夜と、死と、暗黒と、青白い月とを友として、そんな恐れ(=引用注、死への恐怖)を喜びにしたロマンチックの芸術を書きたいと思う。」(「夜の喜び」より、362頁)
どんでん返しやキャラ設定等に凝った作品が溢れた現代のホラー/サスペンス小説と較べると素朴な作品が多い点は否めないが、児童文学者らしい寓話感の溢れた奇譚集に纏まっているとは言える。ただ、作者のいう「ロマンチック」の部分が同時代の室生犀星等に較べると少し落ちる感があるので、星は三つに留めた。また、狂人や病人、貧しい人々等が主要キャラになっている点も各話の共通点として挙げられるが、この辺は逆に現代作品よりも残酷な味わいが深いようにも思う。
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