大人になるということは、社会化することとも言える。
しかし、その「社会」は一様でなく、国や地域、時代によって違ってくる。社会の「正義」も、時代とともに変わる。
主人公は第2次世界大戦中に、敵兵の
ドイツ人の若者と恋に落ちた。
初恋だった。
そして戦争が終わる。
その時、自分の属する「社会」の下した、自分への罰。
自分が属した「社会」との軋轢に苦しみ続ける主人公。
苦しみのあまり、地下牢の壁をひっかき、指から血が出る。
しかしその時は、苦しみから逃れられる。
悲しい記憶から開放される。
苦しい記憶であればある程、人は、忘れたくなる。
記憶を消そうと、防御する。
なのに、ふとした日常の中で、よみがえる記憶。
戦争を知らない若者達が、「戦争を忘れるな」のプラカードを当然の「正義の行為」として掲げ、一方向に行進していく。
「忘れるな」と簡単に言えるのか。
あの苦しみを、「忘れるな」と言うのか。
主人公はラストで、「社会」と自分を貫くことと、どちらをとるのか、再度問われる。
制約が存在する恋愛は「不毛」で終わってしまうのか。切迫した時間は二人の愛の移行となって,神妙に物語は展開します。光と影で映し出される男女の肌。空気を伝える音楽。恋愛の避けがたい矛盾を誇張なく描いた美しい映画です。