学生時代の一時期、立原正秋氏の小説がけっこう好きだった時期があった。
純文学的な要素があるが、読み易い。読み易い割に、研ぎ澄まされたような描写がある。そう感じていた。
直木賞を受賞しているが、それ以前にも
芥川賞と
直木賞の候補になっており、文壇での評価が、一様でなかったことを示してる。ただ、当時、立原氏の出自などについては、本書で描かれるようなことがあったとは知らなかった。
本書は、立原氏の友人でもあった著者が、立原氏の死後、その生涯を丹念に調べ、描いたものである。
印象に残るのは、氏が11歳の時に日本に来ていること。その作品に描かれる“日本の美”は、その知識も感性も、11歳以降に身につけたものであり、強く意識して得たものだったのだ。日本人でも、11歳以前にそういった知識を蓄えることはほとんどないが、やはり感性の部分は、幼少期に自然と育まれる場合が多いのではないだろうか。生まれながらの日本人以上に“日本の美”に強くこだわったのは、そういったことが影響していると思わざるを得ない。
壮絶であり、哀しい人生である。
本作の岡田茉莉子の美しさはDVD
ジャケットでも確認できる通りだ。
モノクロームのスタイリッシュな画面に和服がよく映える (洋装より和装が圧倒的に良い)。
目線の美しさが際立つ。 襟首の美しさに目を奪われる。 映像で愛撫しているかのような画面まである…。
本作は公開時成人指定だったという。
肌の露出は肩や背中を出している程度だが、確かにかなりエロい。 終盤、ホテルの一室での木村功に対する目線 (←凄い演技) などその代表。
襟首を繰り返し写すカメラワークはかなり印象的。
主人公 (岡田茉莉子) はあくまでクール。
夫や愛人との修羅場でもその言葉や所作は乱れない (そこがクールだ)。カメラはロングショットだったり、ガラスや樹木越しにそんな主人公を捉える。
だが、
主人公の感情が堰を切って溢れる時に物語が大きく動く。 その時カメラはグッと寄っていく。 クールな表情の下から感情があふれ出す。 情感と表情の変化が見所だ。
クールといえば映像(構図など)や音楽もとてもクールでスタイリッシュ。
幻想的な場面もあり、どこか前衛的な印象がある。
例えば、繰り返し挿入されるダンプに引かれるイメージや労務者の家のイメージ (←『イレイザーヘッド』を連想した) などだ。
話の内容は比較的通俗的な不倫物 (立原正秋の原作は未読) でシンプルなのだが、そういった部分もあり本作の仕上がりは普通のメロドラマとは一線を画している。
本作は
吉田監督の天才的に美しい映像と女優にして監督の妻である岡田茉莉子の美しさが交じり合い純化して時代を超えた価値を獲得している。
(正直、他の要素はおまけといった感じだ)
私にとって、それが本作の価値のほぼ全てだ…それで十分である。 すっかりヤラレました…。
このDVD
ジャケットにグッときたら…お勧めします。
主人公(行助)の取り巻きの構成がよく、主人公の個性をよく引き立てている。特に義兄との関係において、優しさと紙一重のところにある残酷さを見事に表現している所が素晴らしい。どんどん文章の中に読者を引き込んでいく、手法は見事だと思う。登場する女性は、ややでき過ぎの感もあるが、主人公の脇役として、存在感を充分出しており、ある意味、本小説自体の潤滑剤的な存在にもなっている。私にとって愛着のある一冊。