本書を読んで、その後に本書に関する7件ほどのレビューを確認した。
目についた見解として、(1)「就活への即効薬ではない」(2)「就活の具体策が明示されていない」(3)「就活をテーマにした本なのに震災や原発など、直接には無関連な内容に違和感がある」などなど。
宮台氏の過去の著作に目を通してきた者なら書名の段階で容易に類推可能なことだが、書名や本の中で扱うアイテム(この書籍の場合は「就活」)などというものは、氏が過去から現在に至るまでの言論活動で述べてきたことを語るためのツールでしかない。
はやい話が「客引き」である(本は売れなくなって久しいうえに、かつては学生起業家としてマーケティングに深く関与した宮台氏ならある意味当然の発想だろうし、そのあたりのことを含めて編集担当との呼吸のよささえも垣間見える。)。
よって前述の(1)から(3)の見解は、何もわかっていないだけでしかない。
だいたい即効性や具体性のある就活法などあるわけないことくらい大の大人ならわかっていて当たり前だろう(「だから具体的にはどうしろというのだ?」などの見解こそ完全に論外だ。ある種の思考停止状態にある人物はそのことに無自覚であるのが通例であるからそのこと自体仕方がないということなのかもしれない。)。
それをあえて「即効性や具体策は期待すべきでない」などと記載するなど、それこそ宮台氏の言葉を借りるなら「とっくに終わっている」。
震災や原発について語るのも、本書における「就活」があくまでも自論を展開するための客引きのエサのようなものでしかないのだからこれまた当然の話だ。
しかしながらエサにつられて読んだだけのつもりでも、本書の中には読むだけの価値のある言説が数多いと断言できる。
あるレビュアーの方も語っておられるが、就活年代の子を持つか否かに関わらず子を持つ親こそ本書を読むべきだろう。
それだけ親世代を含めた年長世代が形成してきた今日の日本社会のデタラメぶりがわかりやすく書かれていて、そのような内容をまとめて「そうだからあなたは就職できないんです」「そうだからあなたはダメなんです」などと就活年代以上の読者に対して集中的にフィードバックして語る形式をとっており、それがゆえに論旨に一定以上の説得力がある構成になっている(だからこそ多くの、特に就活年代以上の読者にはひどく痛みを伴う指摘が多々あり<しかもそれらの指摘の多くが当事者にとって今に至っては改善などタイミング的に不可能なことばかりだったりする。>、後述するねたみにつながる可能性を否定できないというのが率直なところではある。)。
そしてそのような日本社会のありようは容易には改善しないことやその理由も明示されている。
ただ宮台氏は表現が辛辣に過ぎたり常人からははるかに恵まれた社会経済状況にあるため、別のレビュアーの方も述べておられるとおり、本書がねたみ(「専門用語多用でわかりにくくしかも本当に役に立つことを語っているのか疑問」などのような一種の婉曲的表出を含む。これも「即効性や具体策は期待すべきでない」などの見解の亜種である。)の対象としての宮台氏の存在をよりクローズアップさせる機能を果たすことになる可能性はある。
だがそんな些末なことよりも、宮台氏が本書を含め過去の著作でも述べてきたように90年代以降に社会的相続財産を放棄してきたこの国で、日本人ひとりひとりがいかにしてあらためて自身に固有のよりどころである「ホームベース」を構築し得るかをひとりひとりが独自に考え決断して行動すること、その重要性を一人でも多くの読者に考えてもらうためにはということが宮台氏の本意であれば、本書のように「就活」をエサにしての客引き行為くらいは許されてもいい。
同居する先輩と後輩のふわふわした日常を書いた傑作。
「それ町」のようにまったりの日常感をベースにするも、地歩がまだ固まっていない大学生達の焦燥感と不安がそれとなく描かれている。
このまま何となく社会人になって、何となく結婚して、何となく年老いていくのだろうな……、という漠然とした人生観はあるものの、それが保証されているわけでもなく、かといってそれ以外の道を探そうにも、探す手段すら分からない、といった一種無気力な後輩と、確固たる夢を持って頑張ってはいるものの、それがいつ報われるのか、そもそも報われるときがくるのかさえ分からず、漠然とした不安の中で頑張っている先輩。そんな二人のふわふわとした日常が書いてあるだけ。なのに面白いし、ラストは心にずしんとくる、不思議な作品。
明日の見えない、無意味ともいえる壁堀をやっていた鯨井先輩が、ある日手を伸ばすと、壁が突き抜け、けれど壁の向こうに行くのには、別の処にあるドアを通じて入っていくのが印象的。
だからこそラストへ収束することになるのだろう。本当に自分の手で壁を突き抜けて行っていれば、悲しい顔になんてならなかったのに……。
ちなみに自分は入巣柚実の方が好き。それと「萌えナビ」に興味があるんだけど……。
一話完結で、伏線張って回収して、キレイに収めてしまうのはさすが。
展開がとっちらかっているような話でも、
最後はこれしかない!というかたちに落ち着きますし、
序盤から「このさきどうなる?」という期待を
読者に抱かせるひっぱり方が本当に魅力的。
漫画のよさをフルに引き出した漫画だとつくづく思います。
相変わらず 細かいネタを自然に仕込んでいるので、一回読むより 何回か読み直したときのほうが面白いですねー。
例えば、クリーニングの荒井さんの奥さんは増代さんなんですが、(アライマスヨ=洗いますよ)旧姓が 柴木 なんです。気づいたときは思わず 吹きました。
ホント 一瞬しか登場しない人たちも個性があって何回読んでも楽しい。メグッピは再登場するんじゃないかと予想していましたが、やっぱり出てきましたね。使い捨てするには 惜しい濃いキャラですもんね。
作者らしい短編集の集大成。いずれも作者らしい「味」が出ている。本編には出てこないけど第1話の表紙に出てる二人は死んだ2人か(笑)。第7話はいい意味で反則。
|