探偵が神様という設定で、あまりに呆気なく答えを出している。だが、推理小説の要素は決して消えない。先に答えを出すことで「どうやって」を読者に考えさせているため、むしろ謎解きの面白さを与えている。
犯行動機や主人公の悲運など麻耶らしい悪意を感じるのだが、それも味があっていい。
単行本(1997年)→新書版(1999年)→文庫(2000年)。 新書化、文庫化の速度が異常に早い。まあ、それだけの面白さがあるとは思うのだが、倫理的にはどうなのか。 けっこう大掛かりなトリックが仕掛けられており、さすがに感心させられた。ただ、こういうトリックは他の作家にやって欲しかったというのが、率直な感想。というのも、文章に魅力がなく、ストーリーもつまらないからだ。この人の話で500頁以上も読まされるのは、苦痛でしかない。といって、この物語には膨大な頁数が必要なのも事実だし。 アンチ・ミステリとしてもあまり評価しない。
詳しくは書かないが、作者である麻耶雄嵩氏は、
アンチ・ミステリーの大家でも特に小栗虫太郎「黒死館殺人事件」が大好きなんだろうと思う。
「黒死館」を読めば一目瞭然なのだけれど、意図的に真似ている部分がある。(最後とか、ニヤリとします)
まあそんなのは置いておいて。
とにかくデビュー作であるこの「翼ある闇」は、舞台や雰囲気としては今までのミステリーを踏襲しながらも、
わざとその定石から歪めていったかのような印象を受けます。
これも余り詳細に述べることは出来ないですが、悉く探偵の裏をかいてゆく犯人、ぶちのめされ敗北する探偵、
タイトル通りの目に遭う探偵、最後におとずれる崩壊、・・・など。
これが初めて読むミステリ本だったとしたらそのお方は悲惨な初体験となることでしょう。
ですので、まずはいろいろな作家のいろいろな有名作品を読んだのちに、本作に取り組んで欲しいと思います。
(日本・海外問わず、できれば黒死館も先に読んでおけたら楽しめそうです)
一部では文章が下手であるとか(不見識なぼくからすれば)見当違いなご意見もありますが、これがデビュー作であること、
茶目っ気がふんだんに盛り込まれた内容など、もっと評価されても良いように思います。
また疑うべくもなくこの作品は次作同様アンチミステリーの様相を呈しているので、
真っ当な推理によって犯人を当ててやろうなどと意気込まないようにおすすめします。
他の麻耶作品にも度々登場する「メルカトル鮎」という奇妙な名前の探偵の最初で最後(おそらく)の短編集です。
他の作品ではメルカトルの性格がよく掴めなかったのですが、この作品を読んで予想以上にブラックでシニカルだったことが判明しました。
一番面白かったのは「水難」です。探偵役(メルカトル)に殺意を抱くワトソン役(美袋)がかつていたでしょうか。
麻耶氏の作品は「蛍」以外文体が硬く読みにくい印象がありますが、この作品は非常に読みやすいです。
萌え巫女姿の探偵、訳ありで自殺願望ありのワトソン役の大学生が偶然(?)遭遇する古き信仰が残る旧家での連続首斬り殺人。犯人は?動機は?その18年後にまた同じ事件が発生!模倣犯か?それとも連続殺人なのか?真相は? 著者の作品及び文藝春秋からすると単なる正統派で終わるわけないと思いながら読んでいましたが、やはり後味の悪さは用意されていましたね。しかも従来の作品に勝るとも劣らない衝撃。 本格ミステリとして傑作のうちに完了出来るものを最後にひっくり返す、この読後の後味の悪さは毎回なんとも言えませんね、病みつきになります。 …という従来の作者の路線そのままであると了解してお読み下さい。巫女さん姿の萌えな表紙のみで判断すると後でしっぺ返しに合います。 後味の悪い結末がアナタを待っています、でも間違いなく本格。そして怪作。傑作。今年度本ミス1位候補の作品ですね。
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