あまりヒットしなかった超名作。雰囲気や映像美はテレンス・マリック並み(ナレーションの雰囲気までテレンス・マリックだ)、静かに画面を満たすニック・ケイブの名サントラ、絶対にキャリア最高の演技を披露したブラピ、鳥肌の立つクライマックス…一分の隙もない名画だと思います。人間ドラマの面では、ジェシー・ジェームズを崇拝するストーカーファンのような少年が「ついに憧れの男を殺すまで」を見せた実話映画ですが、歴史背景について思いめぐらしてしまいます。 19世紀末、南北戦争直後のアメリカで南軍シンパの残党たるジェシー・ジェームズが何故に英雄視されたのか。そもそも南北戦争とは何だったのか。当時の奴隷は農場主の「財産」だったんですね。現在価値に換算して、男性黒人奴隷は一人がブルドーザー一台並みの値段だったと昔読んだ記憶があります。リンカーンの「奴隷解放宣言」というのは南部にとっては「財産没収宣言」だったんですね。奴隷制度の非人間性は言うまでもないですが、正論は置いといて、突然「財産没収」と言われたら、時代の拘束の中で生きるしかない神ならざる身の人間ならばまあ戦うでしょう。そしてジェシー・ジェームズが「銀行」を狙い続けたというのも意味深でなくもない。当時の人々にとって「銀行」とは何を象徴していたのか。さらに、そういう彼が「義賊」扱いされたという、ある意味アメリカの裏民衆史の匂いが。 まあ映画自体にはそんな歴史講釈は一切出てきませんし、厳密には歴史ドラマでさえないでしょう。少年は憧れの対象を殺めることによって何を達成しようとしたのか。気取った表現を使うと、実在論的ドラマであります。
これは楽しめるというか、難しい映画なので 観て面白いと思うかどうかはその人次第。
コメントお待ちしています。
この映画をみるまで、ジェシー・ジェームズについての唯一の知識は
プレファブ・スプラウトというバンドが、
ジェシー・ジェームズを題材にした曲を
うたっていたことぐらいで、まったく知らなかった。
ジェシー・ジェームズ=ギャング?盗賊?
ただ、この映画を見る限り、盗賊の親分ではなく
”狂気”の結果、親分たちもいなくなった
ようには描かれいる。史実もこうなのか?
それはさておき、
ブラッドピットって”狂気”の役がぴったり。
かっこいいだけの男や、エリート役は似合わない。
淡い絵画のような風景が”狂気”をひときわ際立たせている。
彼はなぜ”狂気”に操られたのか?
なぜ、英雄視されているのか?
答えられる人、答えられない人
あなたはどっち?という映画。
いずれにしろ、独特の世界観のある印象に残る映画です。
映画を観て、もっと彼らのことを知りたくなり、購入しました。映画の場面そのものの描写のおかげか、長さの割に読みやすかったです。映画では省略された前半生が書かれていたのもよかったです。人物相関図をもっと詳しく載せるとか系図などの資料が充実するともっとよかったかも。
義賊の英雄ジェシー・ジェームズと、彼を慕いながらも最終的に彼を背後から撃ち殺した卑怯者としてその名を残すロバート・フォードとの切なくも皮肉な運命。
フォードがジェームズに憧れを抱いて接近、しかし、彼の傍で過ごすうちにアンチヒーローとして崇めていた彼の、猜疑心の強い別の顔を知り、自身の感情を乱していく、その繊細な内面がジワジワと炙り出されていくという展開なんですが、ストーリーらしいストーリーがない。 静かな演出を採っているけれど、さすがにダレて160分は長いと感じてしまいます。 また、フォードによる一人称で語られておらず、ジェームズに割かれる部分が必要以上に多くなり、それだけならまだしもジェームズの視線で語られるエピソードも出てきてしまい、焦点がボケてしまっている。
確かにブラッド・ピットは「カリスマ性」を発散してジェームズにぴったりでした。それより凄かったのが、ケイシー・アフレックの妙演。憧憬が妄執に変わり、神経衰弱ギリギリの状態を実に繊細に演じていて素晴らしかった。兄役のサム・ロックウェルも同様に非常に複雑な演技でした。 また、映像は、オープニングの森の中を静かに滑っていくカメラワークからして魅力的で、空や緑、大地の捉え方に詩情が溢れている。この映画が神話的な印象を色濃くしているのは、この撮影あればこそでしょう。 また、風の音や鳥、虫の声など、音的に非常に繊細な構成であることも強く感じました。エンドロールにはサウンド関係者の名が並びます、音のあつかい方も絶妙でした。
役者の演技、映像、音響と素晴らしいし、全編、心理・内面を描き、そして、終盤は殺すか殺されるかの息詰まる心理戦も素晴らしいのに、散漫な印象が残ってしまうのは惜しいです。
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