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安部公房『箱男』 Kobo Abe - Hakootoko
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第四間氷期 (新潮文庫)

黎明期において「子どもの読み物」とバカにされたSFに対し、安部は早くから面白さに気付き好意的であった。
評論家ではなく実作者であった安部は、自らもSF的道具を用いた作品をいくつかものしたが、『第四間氷期』は(他の方のレビューにもあったが)過小評価されているように思う。
これは極上のエンターテイメントだ。

未来を予言する機械。暗殺者の影。ミステリを思わせる幕開けは、やがてとんでもない飛躍を遂げ、冷酷な終幕へ向かう。「今もまったく古びない」とはさすがに言えない(コンピュータの描写など時代を感じさせる)が、有無を言わせない圧倒的な大風呂敷の広げっぷりとその見事な回収は、今でも十分興奮させてくれる。
『第四間氷期』をJ.G.バラードと比較した評は、浅学にして知らないが、70年代にSF界を席巻した「ニューウェーヴ」の旗手であった初期のバラードに通じる、深い悲しみとどこまでも広がる諦観を、私は『第四間氷期』に感じる。不条理をただ不条理として眼前に投げかける作風で評価された当時の安部であったが、この作品に関してはそれを封印し、あくまでも首尾一貫したストーリーテラーに徹している(それがいまひとつ低い評価の所以なのかもしれない)。
これは美しい小説だ。透き通るような映像を喚起させてくれる小説だ。そしてなによりもエンターテイメントだ。
もしも映像化されるなら、音楽はサティかドビュッシーの陰鬱なピアノ曲であってほしい。強くそう思う。

最後に。安部公房をSFだっていうと顔をしかめる人がいるけど、『世界SF全集』(早川書房)にも安部公房の巻があるんだし、本人もSF好きだったんだから、べつにいいじゃない。



(霊媒の話より)題未定: 安部公房初期短編集

発売日に調べて、すぐに見つけて注文しました。数日後、届いた時には感激しました。こんなに早く対応していただけるなんて、ネットの便利さと力の大きさを、あらためて感じています。書店に棚に並ぶ前に手元に届いたのですから、これ以上の評価はないでしょ、。



こころの声を聴く―河合隼雄対話集 (新潮文庫)

そうそうたるメンバーとの対談集。それぞれの分野で極めた大先輩ばかりですが、人生や仕事に対する真剣さ・真摯さが伝わってきて、気合いが入ってきます。よし、やるぞ!という気持ちが湧いてきます。くよくよしそうになる時に読んでいます。気分爽快になります。



壁 (新潮文庫)

これまでにない日本人作家が現れた。この作風をなんと名づけよう?そうだ「不条理」がいい。
安部公房に終生つきまとった「不条理を描く前衛作家」という看板は、『壁』によって決定付けられた。
『壁』はさまざまに解釈されてきた。
『壁』はパワーゲームの物語である。支配する者と支配される者を描いた物語である。
『壁』はアイデンティティの物語である。自己の喪失をメタモルフォーゼを通じて描いた物語である。
『壁』は名づけることの物語である。「名前」と「存在」の不確かな関係を描いた物語である。

ごもっとも。だからなんだっていうんだ?ありふれた「不条理」はもうたくさんだ。
安部の作品が新たな読者を獲得しつづけているのはなぜだろう?その深い思想性に触れて?それだけ?
安部作品は面白い。それがなければ、今もなお読みつづけられているわけがない。

先ほど『壁』のよくある解釈をあげてみたが、『壁』をキャロルの『不思議の国のアリス』に置き換えてみてはどうだろう?
なんとも。これは。ぴったりじゃないか。
『不思議の国のアリス』を前衛だの難解だのいうやつがどこにいる?伸び縮みするアリスの身長にどんな思想性が読み取れる?(フロイト的に解釈するのは確かに痛快だけどネ)

『壁』は日本初の純ファンタジー小説だ。この世じゃないどこかの物語なんだ。
『壁』はホラ吹きおじさんの愉快な与太話だ。お話の上手なおじさんの昔話なんだ。
『壁』は空っぽだ。ぼくらの想像を、ぼくらの妄想を、いくらでも呑み込んでくれる隙間だらけの箱なんだ。
そこから始めてみてもいい。『壁』はこう読み解くべき、なんて10回読んだ後でもいい。
まずは鮮やかなイマジネーションと透明なデタラメに酔ってみよう。
ここにはストーリーテラー安部の手腕がいかんなく発揮されているんだから。



砂の女 (新潮文庫)

この小説を娯楽作品として捉えると、大変読むのが辛いであろうと想像する。この作品中には、文学だけが持つ「時代を経ても古くならない重厚さ」があるからである。

この小説はストーリーとしてよりもむしろ一個の「メタファー」として捉えられるものであろう。ストーリーであれば、結末は一つである。作品の解釈も、作者が「こうである」というふうに誘導してくれるため、読後感も良い。しかしこの作品は、様々な方向から解釈する余地を残している。なぜ砂なのだろうか、なぜ男は残ったのだろうか…疑問は尽きることがない。著者の筆致とも相まって、読了感は非常に「不安定」である。

また登場人物についても、男と女以外は「顔の見えない異邦人」としてしか描写されない。女の名前も無いので、感情移入出来る人物は実質男一人である。このあたりからも、作者が「お話」を書きたかったのではなく、「ただそこにあるものをいかにして捉えるか」に注力したことが伺える。しかしながらこの考え方も、私の「いち解釈」に過ぎない。このレビューを読んだ方はぜひ購入して、自らの感性に挑戦してほしいものである。

読了後に冒頭の手紙を読み返してみると、これまた面白い。頭の中を想像が駆け巡り、読者を捉えて離すことがない。

名作であると思う。星4つを進呈。



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