~この人を知っている人が今、どれくらいいるのだろう。鈴木いづみと天才的なアルトサックス奏者の夫・阿部薫との関係が映画化され、一時的に見直された時期があったが・・・。映画のタイトルは「エンドレスワルツ」で、広田レオナの主演映画だ。私は、映画も観たし鈴木いずみの本も何冊か買って読んでみたが、それで感じたことは、鈴木いづみは創作した文章よ~~りもいづみ自身のキャラクターの方がよっぽど面白い人だということ。その人物像に迫っているのが本書だ。鈴木いづみと関わっていた様々な人がいづみについて語っており、いづみ好きな人にはかなり参考になる本だと思う。~
この文庫は、初期に同人誌などに発表していた短編を集めたもの。 >まだ生きている僕には、(..略)蛆はわいていない。 こんな書き出しの「赤鬼が出てくる芝居」が小実昌節のハシリのようで、思い切り感動してしまった。コミさんの大事なネタである「兵隊もの」だけれど、生な描写のなかに、芝居気があふれかえっていて楽しい。 登場人物が芝居をするだけでなく、語り手も相当に芝居しているのにも注目。たとえば、 >あの時、走っていた僕は、どうも芝居をしていたのではないらしい。とすると、僕は何をしていたのだろう。 こんな語り口、語り手自身の自問というのもコミマサの世界の特徴だ。それが1955年という頃にすでに登場しているのだから嬉しい発見だ。「ポロポロ」あたりになると、そうした物語への懐疑がストレートに出すぎて、「もういいよ」という気分にもなるのだが、初期の、まだ題材にのめりこむ形で文の上手さが伝わるこの頃のが一番素直に読める。 いや、「ポロポロ」の純文学風の構成も立派なものではある。ただし、アタマで謎かけしておいて客を集め、バイが終われば謎を引っ込める、というのは香具師の定石だろう。それが格調高い物語に出てしまっては、ちょっといやだなと思う。 香具師の話なら「香具師の旅」など傑作が思い浮かぶけれども、ここに収録されている「やくざアルバイト」などほとんどエッセイだが、やはり滑らかで人懐こい語り口が楽しい。 戦後ものの「上陸」はハードボイルド調の秀作。英語にして読んでも楽しいだろうな。 書こうとする景色に対する視力が段違いなんだ。
ロッカー・ルームは、いつもとおんなじだ。
これは、たぶん、このおれが、いつもとおんなじだからだろう。
田中 小実昌は、毎日が続いていく様を、その中の一日を、
こんな風にとくに思い入れも無く、淡々と順序通りに書いていく。
ただあるがままの生活
自分にも他人にも人生にも、
多くを求めたりはしない。不満を言ったりもしない。
目の色をかえてがんばったり、ひどく落ち込んで見せたりもしない。
ケセラセラ、そんな本。
こんな本は他の人には書けないと思わせる、奇異なる才能。
コミさんの戦前戦中期の体験を素に書かれた私小説風の話なのだが、作者同様飄々とした文体で描かれるので本邦伝統の私小説的ドロドロ感は表面的には全くない。 それでも人間という不条理の塊を「ロゴス」で描かなくてはならぬ「小説家」としてのあまりにも前向きな「諦観」は「スローターハウス5」のヴォネガットを連想させる。哲学的命題からトイレの落書きまで、呆けたじいちゃんの口からご飯がポロポロこぼれるみたいに言葉が溢れ出る。そういうもんじゃん! なんつって!! こんなナイスな小説が絶版のままなのは許せなかったので、今回河出で出版されることになったのはとても喜ばしいのだが、この作品はカフカの「変身」同様、具象画をカバーに使って読者に先入観を抱かせてはいけないのだ。これじゃ「裸の大将、戦争へ行く」みたいじゃないか。ってそんなのあったら読んではみたいけど・・・
若松孝二監督逝去で、今まで陽の当たらなかった膨大なフィルモグラフィーが紐解かれると思いきや、 名画座での追悼特集は代表作ばかりで肩すかしを食らいましたが
(亡くなった時はあちこちで報道されていたにも関わらず・・・若松監督の評価って、こんなにも 低かったのでしょうか、残念でなりません。)
まさか東映での買い取り作品をdvd化するとは、東映ビデオさん、なかなかの仕事です! (追悼でニューリリースしたのは東映だけとは情けない。) で、内容ですが、一連のピンキーバイオレンス的なタイトルに相反して甘酸っぱ苦い、切ないドラマ です。コメディ要素の高い堺勝朗さんが出演していますが、どこか空しさの漂う演技も良いですね。
東映でもう一本、『マル秘女子高生 恍惚のアルバイト』を撮っていますが、こちらも何とか観たい作品です。
紀伊国屋書店さん、『鉛の墓標』『血は太陽よりも赤い』・・・初期傑作選DVDーBOXの続編リリース、 今からでも遅くないですよ!
|